法人代表者の住所非表示措置について、まとめてみた

条件付だけど、法人代表者の住所を登記上、非表示にできる!

商業登記では、法人代表者の住所と氏名が登記事項として記録、公示されます。そして、その法人の登記簿は、誰でも取得出来ます。となると、法人代表者の現住所が知られたくない人にも知られてしまうという状況になる訳です。

何か、現代の感覚にそぐわないですよね、この状況…

全く同じケースではないですが、以前対応させて頂いた商業登記の案件(某ミュージシャンの所属事務所)で、「事務所にファンが押しかけてきて困っている。至急、事務所を移転したので、その変更登記を行って欲しい。」というものがありました。

「何故、HPにも事務所の所在場所を載せていないのに、ファンが押しかけて来るのか?」

それは、ファンが事務所の登記簿を取得した可能性が考えられます(事務所である法人の本店所在場所は登記事項です)。こういったお客様の声を伺った経験もあり、「登記記録上、プライバシーの色彩が濃い情報は公示しない方が良いんじゃないの?」と個人的にはずっと思っています。

そんなムードが少しだけ変わるかもしれません。今回は、それにちなんだテーマである「住所非表示措置申出」についてです。

Contents

住所非表示措置申出とは

概要

法人の登記記録について、現住所が公示されている自然人(人間という意味です)が、その非表示を希望する旨の申出を法務局に対して行えば、現住所が非表示になるという制度です。

法人は株式会社に限りません。合同会社でも、一般社団法人でもOKで、制限はありません。自然人も法人の代表者に限定されません。現住所が公示されている自然人であれば、対象となります(例:有限会社の取締役、持分会社の社員)。

但し、無条件で申出可能という訳ではありません。DV被害者、ストーカー被害者、児童虐待を受けた者等に限定されます。

根拠法令

正式名称は、「商業登記規則及び電気通信回線による登記情報の提供に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和4年法務省令第35号)」といいます。

令和4年8月18日に公布、同年9月1日に施行されました。

効果イメージ

登記記録としては、株式会社の場合、「商業登記規則第31条の2の規定による措置」と現住所欄に公示されます。あくまでも現住所に対する措置の為、過去の住所は非表示にはなりません。

この非表示措置は、申出をした年の翌年から3年間の有効期限が付いています。有効期限満了前に法務局から期限が満了する旨の通知書が郵送されますので、引続き非表示を継続希望する場合は、再度、住所非表示措置申出を行います。

また、申出後、現住所を公示しても差し支えない状況になった場合は、住所非表示措置を希望しない旨の申出を行うと、現住所公示を復活させることが出来ます。

住所非表示措置申出後登記イメージ
(令和4年8月25日 法務省民商第411号通達より抜粋)

手続方法

管轄の法務局に対し、右の申出書に必要事項を記載し、提出します。管轄とは、原則として、当該法人の商業登記を管轄する法務局(本局となるケースが多い)を指すものと思われますが、法務省提供の資料中には具体的な記載はありませんでした。

郵送を可能とするか否かも、不明です。既に施行されている制度ではありますが、情報の蓄積が無い為、実際に申出をする前に書類郵送が可能か否か、管轄法務局に問合せをした方が良いと思います。ちなみに、法務省提供の資料中には、「登記の申請と同時に申出を行う場合は、オンラインにより実施が可能」との記載がありました。

添付書類としては、当人が被害を受けるおそれがあることを証する書面(例:DV等支援措置決定通知書、ストーカー規制法に基づく警告等実施書面等)と住所を証する書面(例:住民票、戸籍附票、運転免許証コピー、マイナンバーカードコピー等)が必要です。代理人によって申出をする場合は、委任状が追加で必要になります。

注意しておきたいポイントは、「この申出をした後、住所変更登記を行った場合、新たに住所非表示措置申出を実施しないと、変更後の住所が表示状態になってしまう」ということです。このまま非表示状態を継続して欲しい所ですが、リセットされるみたいです。

住所非表示措置申出書イメージ
住所非表示措置申出書イメージ
(令和4年8月25日 法務省民商第411号通達より抜粋)

注意事項

全ての人が無条件に利用できる制度ではない!

概要でも述べた通り、この制度は利用者が限定されています。繰り返しますが、DV被害者、ストーカー被害者、児童虐待を受けた者等に限定されます。

被害を受けそうな人を未然に救う手段ではない!

商業登記規則第31条の2の条文中には、対象者に対する文言として、「~に規定する被害者」や「~に係る被害を受けた者」という表現が用いられています。

これは、既にDVやストーカー行為等の被害を受けていると公的な証明書で認定されていることを意味します。つまり、被害を受けているが公的な証明書で認定されていない人や被害を受けるおそれのある人を救う手段ではないということです。

現実的には、被害を公的に認定してもらい、その後、新住所変更登記と同じタイミングで住所非表示措置申出を行う運用になりそうです。

まとめ

今回のポイントをまとめると、以下の通りです。

  • 商業登記で現住所を非表示にできる手段が出来た
  • 但し、条件付で対象者が限定されている

最後に

今回のテーマはマイナーなものでしたが、この制度が有効に機能すれば、利用条件が緩和される可能性を秘めています。冒頭でも述べた通り、登記記録とはいえ、プライバシーの色彩が濃い情報を公示するのは現代にそぐわないと思っています。その意味でも、この制度の成果を見守っていきたいと考えています。

そもそも「法人代表者の現住所を公示する意味って何なの?」ってトコなんですけど、一説によると、訴訟等の際に本店所在場所に書類が送達されない場合の補充的な措置として公示されている代表者の現住所に送達する、みたいな意義があるそうです。でも、本店所在場所宛の書類が送達されないなら多分、その法人は危機的な状況にある訳で、おそらく法人代表者の現住所宛に書類を送達する試みは殆ど意味をなさないと思います。「だったら、公示送達でええやん!」と個人的には思います。

有名な話ですが、昔のプロ野球選手名鑑って、選手の自宅住所が載ってたんですよねぇ。今では考えられないことですけど、ある意味で自宅住所を載せても問題無いぐらいのおおらかさがあったのです、この国には。「生きづらくなったよなぁ」という実感を込めてこの記事を書いた次第です。

それでは、また次の記事でお会いしましょう!

シェアしましょう!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

Contents